審査員コラム
「品質マネジメントシステムの形骸化しやすい3大要求事項」連載第3回

ISO9001/ISO22301主任審査員 ISO13485審査員 相川 敦

2015/7/3up

ISO9001における形骸化しやすい3つの要求事項と形骸化の要因、そして
規格の本来の意図に関する考察を、筆者の審査経験をベースに深めます。(隔週金曜日掲載)


品質マネジメントシステムの形骸化しやすい3大要求事項 | ISO認証機関 ビューローベリタス
審査の現場において、多くの組織で形骸化していたり、ISO9001(以下、規格)に適合した運用が窮屈になっていたりしていると感じられる3つの要求事項、2つ目は「教育・訓練の有効性の評価」(ISO9001:2008 6.2.2)です。

規格6.2.2では、次のようにあります。

c)教育・訓練又は他の処置の有効性を評価する。
(JIS Q 9001:2008から引用)

今回は、力量確保の手段として中心となる教育・訓練に対する評価に焦点を当てます。

審査では各要求事項に目を向けますから、教育・訓練の有効性の評価についても、それをどのように実施しているかを確認します。6.2.2 e)で「教育、訓練、技能及び経験について該当する記録を維持する」に基づき、有効性の評価についても何らかの記録があるかを確認し、その内容を拝見します。従って「教育・訓練の有効性の評価はどのように実施していますか。評価の結果はどのように記録していますか。確認できる記録を見せて下さい」といった質問を投げかけることになります。

これに対して「あ、それならここに書いてあります」と社内や外部での研修などの報告書を提示して下さることが多いです。報告書は研修受講者から組織に対して提出されたもので、研修の日時・開催場所とともに学んだ内容や感想などが記載され、上長の評価欄では上長によるコメントが書かれています。内容としては、研修受講者である報告者に学びはあったか、学んだことが業務に活かされているかといった本人の評価が書かれていることが殆どで、併せて「教育・訓練が有効であったこと」が「ある・なし」の選択式やコメントとしてきちんと書かれていることが多いです。それらは規格適合性の判断としては教育・訓練の有効性の評価及び記録がなされていると捉えてよいと考えられます。つまり適合です。

そうやっていくつかの記録を拝見し、いずれも研修が有効であったことが記載されている場合(そういう場面が殆どなのですが)、次にこんな質問をします。

「これまでに有効ではなかった、あるいは有効性が乏しいと評価した事例はありますか。」

この質問には少し驚いて戸惑った表情をする方が多いです。そんなことを聞く審査員は珍しいのかも知れません。そして「いいえ、ありません」という答えが返ってくるのが普通です。それはそうでしょう。部下が研修に参加し何を学んだかの報告をしたのですから、その頑張りに対して「有効性あり」と評価するのはごく当たり前です。そこで次の質問です。

「実施された教育・訓練は常に有効性ありとの評価ですが、有効性を評価することの価値をどのように受け止めていますか。」

そうすると時に、「有効性のない教育・訓練というのは考えにくいので、半ば機械的になっているかも知れない」といった感想を口にする方がいらっしゃいます。人事考課などへの情報源として評価結果を活用することは多いと思いますが、教育・訓練の有効性が「あり」か「なし」かという点では常に「あり」だということなのです。ここにこの要求事項のポイントがあります。つまり、いつも「あり」と評価することにどのような意味があるのか、ということです。半ば機械的に有効性ありとする作業になっているとしたら、一種の形骸化と考えることもできるでしょう。

では、規格にこの要求事項が組み入れられている意図はなんなのでしょうか。

それは、教育・訓練プロセスにおいてPDCAを回しなさいということだと考えてよいでしょう。つまり次回により良い教育・訓練を行うために、実施された教育・訓練を振り返り、改善のためのポイントを見つけ出しなさいということです。従って教育・訓練を受けた本人に対する評価と共に、教育・訓練手法に目を向けて評価することが重要になります。

一般的に、本人に対する評価であれば「よく頑張った」と常に「有効性あり」と評価することは育成の意味でも大切ですが、教育・訓練手法を評価すると何らかの改善点が見つかるはずです。本人にとっては多少の学びはあったとしても、例えば「講師の質は期待したほど高くなかった」、「内容のレベルに比べて参加させた受講者のレベルが適切ではなかった(高すぎた・低すぎた)」など、次回は工夫した方がよいと思う部分があると思います。あるいは「一定の学びはあったが、期待値よりは低かった」という場合もあるでしょう。それらの評価をきちんと拾い上げて今後の教育・訓練プロセスをレベルアップしていくのです。本人評価ではなく教育・訓練手法についての評価であれば「有効性が乏しい」という評価も大いにあり得ることだと思います。繰り返しになりますが、本人評価を実施することが規格の主旨に合わないということではありません。本人評価をすることも非常に大切ですから、それに加えて教育・訓練手法についても評価を加えるということが望ましいでしょう。

また、教育・訓練は研修や講習会だけで実施されるものではなく、OJTも大切な教育・訓練です。例えば今年の新人の育成手法はどうだったかという視点よりOJTについても振り返り、次の新人育成をより効果的なものとするために改善点を見つけ出していくのです。

なお、規格には「有効性の評価は、教育・訓練実施の都度すみやかに行ないなさい」といった要求事項は存在しません。例えば「過去半年間に実施したOJTを含む教育・訓練をその実施時期も含めてまとめて評価を行う」といった方法も、組織にとって最も有効であれば問題ないでしょう。

教育・訓練プロセスの改善につなげるために、どのような有効性評価方法を選択することが組織にとって効果的なのかを考え、価値のあるマネジメントシステムに進化させることが大切です。

最終回となる次回では、形骸化しやすい要求事項の3つ目として「供給者の評価」を取り上げ、形骸化の要因、そして規格の本来の意図に関する考察を深めます。

(続く/本連載は隔週金曜日に掲載します)
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