審査員コラム
「品質マネジメントシステムの形骸化しやすい3大要求事項」連載第4回(最終回)

ISO9001/ISO22301主任審査員 ISO13485審査員 相川 敦

2015/7/17up

ISO9001における形骸化しやすい3つの要求事項と形骸化の要因、そして
規格の本来の意図に関する考察を、筆者の審査経験をベースに深めます。(隔週金曜日掲載)


品質マネジメントシステムの形骸化しやすい3大要求事項 | ISO認証機関 ビューローベリタス
審査の現場において、多くの組織で形骸化していたり、ISO9001(以下、規格)に適合した運用が窮屈になっていると感じられる3つの要求事項、3つ目は「供給者の評価」(ISO9001:2008 7.4.1)です。

規格7.4.1には、次のようにあります。

組織は、供給者が組織の要求事項に従って製品を供給する能力を判断の根拠として、供給者を評価し、選定しなければならない。選定、評価及び再評価の基準を定めなければならない。
(JIS Q 9001:2008から引用)

供給者とは、組織に対してモノやサービスを供給してくれる業者を指します。原材料の納入業者、加工委託業者、設備機器のメンテナンス業者、運送業者など様々です。

審査では、供給者の評価をどのように実施しているかを確認します。規格では基準を定めて評価をすることを要求していると共に記録を残すことも求めていますので、供給者1社に対して1葉、あるいは複数の供給者をリスト形式で評価するための書式を作成して評価を行っている例を多く見受けます。また規格には評価の実施時期や頻度についての定めはありませんが、1年に1回程度評価を実施している組織が比較的多い印象です。

評価基準としては品質・納期・価格・経営安定性・協力度・提案力といった項目を掲げ、それぞれについてABCや〇×といったランク付けをしたり、点数をつけたりして最終評価に繋げているケースが一般的なようです。

そのような評価の記録を拝見する際には、直近の評価結果だけでなく過去からの記録も合わせて確認します。評価結果に何らかの変化があるかを知りたいからです。ところが過去一度もあるいは何年にも渡って全ての供給者の評価結果に何の変化もないという事例を見ることが少なくありません。「評価結果はずっと変わっていませんね」と伺うと、「そうですね。どこも特に問題ないです」というお返事をいただくことが普通です。もちろん問題がないのは良いことであり、規格適合上の観点でも問題はありません。ただ、そんな時に一点だけ知りたいのは、供給者の評価という作業が組織にとって本当に役に立っているのかどうかということです。

ざっくばらんにお話を聞くと、様々な意見や疑問が返ってきます。「供給者に問題があったらその時々に直してもらっているし、毎年評価なんてやる必要あるの?」という質問をいただくこともありますし「ある意味一種の儀式みたいなもので、毎年とりあえず記録を作っています」や、中には「審査の時に聞かれるので一応やっています。半ば儀式化しているかも知れませんね」という感想を仰る方もいます。いずれも、供給者を評価することに価値を感じていないということだろうと思われます。形を整えるだけ、つまり形骸化してしまっているのです。

要求事項をもう一度見てみましょう。規格が言っているのは「相手が自分たちの求めに応える能力を持っているかを評価しなさい」ということです。では、皆さんの組織がそれぞれの供給者に求めるものや求めるレベルは全社共通でしょうか、また過去から変わらないでしょうか。

そうではないでしょう。ある供給者には納期の短さを求め、ある供給者にはコストの低さを求める。極端な話をすれば、「ある供給者には納期やコストは多少要求水準を下げても、対応の速さだけは他のどの供給者よりも求めたい」といったケースはは多いと思います。また、以前よりも重要な部材を納入してもらうようになったため、品質を強化して欲しいといった要求水準の変化も大いにあり得ることだと思います。

規格は「全ての供給者を同じ基準で評価しなさい」とは言っていません。また「毎年同じ基準で評価しなさい」とも言っていません。言おうとしているのは「供給者1社1社に対して皆さんの組織がその時点で求める内容・水準に、それぞれが応えられるかどうかを評価しなさい」ということだと思います。従って供給者の評価を実施するというのは、自分たちは各供給者に今何を求めているのか、及びどの程度の水準を求めているのかをまずはっきりさせて、その上で評価をすることが大切なのです。定期評価を実施する場合でも、組織の各供給者に対する評価基準が適切であるかを検討するところから始めることが、供給者評価プロセスの意義をはっきりさせ、評価作業の価値を高めることになります。

以前にこんな質問をいただいたことがあります。「各供給者の評価基準を供給者ごとに決めてよいということであれば、他に比べてレベルの低い供給者と取引をしても構わないのですか」。これに対する答えは「組織がそれを良しとするなら構いません」が正しいでしょう。供給者に高い水準は求めないと決めることは組織の自由です。しかし忘れてはならないのは、組織が顧客に提供する製品・サービスの水準は下げられないということです。従って、供給者に求める水準を下げるのであれば、最終製品の水準との間のギャップは全て自社で埋めることになります。それにはコストも手間もかかるでしょう。その全てを負うことを許容できないからこそ、供給者に求める項目や水準が定まるのです。その観点をもとに、供給者評価のあり方をもう一度見直してみることも有効ではないでしょうか。

さて、本連載では審査の現場で感じる「形骸化しやすい3大要求事項」についてお話をしてきました。一番重要なのことは、なぜそのような要求事項が存在しているのか、また、その要求事項の意図は何なのかをよく考えることだと痛感しています。単に「規格が定めているから実施する」ではなく、要求事項の背景に思いを巡らせることで取るべき対応が見えてくるはずです。もしこの3つの要求事項以外にも「規格の要求通り実施しているが価値が感じられない」とか「審査さえなければこんな意味もないことに取り組まないのに」などと感じる点があれば、ぜひ規格の意図を掴みだすことを実行してみて下さい。規格の要求事項には全て目的と意味があります。その目的と意味を正しく理解し、組織及び事業活動の成長・発展のために、マネジメントシステムを活用されることを心より願っています。

(続く/本連載は隔週金曜日に掲載します)
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