審査員コラム
マネジメントシステム運用の要諦は人間です

ISO9001/ISO14001/ISO10002 主任審査員 木野山 博文

2016/10/14up

マネジメントシステム運用の要諦は人間です | ISO認証機関 ビューローベリタス
ISO9001:2015年改定版が昨年発行されました。リスクマネジメントの考え方が導入され、リスク対応をプロセスに組み込む必要がでてきました。本コラムでは、入院を契機として改めて感じた「ヒューマンエラーに伴うリスクへの対応の重要性」について考察します。

審査員は移動が多い職業です。全国を周って審査を行います。審査対象の現地に伺うと、対応される多くの方から、「色んな所に行けていいですね」という言葉を頂きます。おかげさまで、14年の審査員生活の中で、北は北海道から南は沖縄県まで殆どの県に行きました。私は広島県の中で唯一鉄道が通っていない郡部の出身で、そのため、列車に乗るのが好きで列車での移動があまり気になりません。それどころか、列車の車窓を通じてある種の開放感を味わう機会となっています。

しかし、昨年の春に「エコノミークラス症候群」にかかりました。足を伸ばさないで、同じ姿勢で長時間いると足に血栓ができ、その血栓が肺に飛んで呼吸困難となるのです。医師からは、長時間の列車(たまには飛行機)移動が原因の1つではないかと言われました。これを機に、現在は移動中でも1時間に1度は車中歩行や屈伸を行なって、予防に十分注意しています。

この病気にかかった時、1カ月以上の入院を経験しました。その際にお世話になった看護師さんは昼夜入れ替わりで、多くの方が担当してくれました。点滴の交換時に、「XXXの点滴をしますね」など声をかけてくれる方もいれば、何も喋らずそっと交換する方もいました。患者に負担をかけないよう一生懸命看護処置頂いた看護師さんには申し訳ないのですが、「点滴の誤薬はないのだろうか、この看護師さん大丈夫かな・・・」と一瞬不安となることもありました。

人的サービスでは、ヒューマンエラーによる事故が発生しています。病院などでの患者の取り違えや、医薬品の誤使用。医療以外の産業界でも、事故・トラブルの原因の多くは人的要因が占めています。航空機における重大事故の約60%がパイロットなどの人的要因であり、建設業の事故災害で約50%、鉄道事故で約35%、製造業で約40%、医療事故では約80%にもなるといわれています。

ヒューマンエラーの問題は、人間が原因で発生するエラーであるため、発生確率が高く、繰り返し発生することです。注意力の喚起や教育訓練、また検査・確認を行ったとしてもヒューマンエラー防止には限界があります。審査現場で感じることですが、個別事例への再発防止を行ったとしても類似事例の再発がみられ、効果は必ずしも十分とはいえません。さらに問題なのは、発生原因の特定が進まず「確認不足」「注意不足」「認識不足」などで止まっている事例が多いことです。根本原因の特定が不十分での是正対策(多くは教育訓練の実施)では再発可能性がさらに高くなります。

最近のヒューマンファクター工学や安全工学のアプローチでは、「ミス・エラー、誤差」⇒「不確かさ」、「事故は努力で回避できる」⇒「事故は必ず起きる」、「無事故」⇒「事故影響の削減」などに変化しています。機械安全のISO規格では、「安全とは受容できないリスクがないこと」と定義されていますが、「安全は存在しない、存在するのはリスクだけである」という考え方です。従って、ヒューマンエラー対策を考える際に、「事故・ミスは起こるものでリスクを可能な限り引き下げる」という視点が欠かせません。ヒューマンエラーに関係する事故対策としては、「@エラー発生自体を防止する」、「Aエラーが発生したとしても、事故に繋がらない、ヒューマンエラーの拡大を防ぐ」、という2面を考慮する必要があります。   マネジメントシステム運用の要諦は人間です | ISO認証機関 ビューローベリタス

@の「エラー発生自体の防止」については、個別エラーへの根本原因を特定した原因除去の再発防止を行うと共に、累積したヒューマンエラー事例を活用して、どのプロセス・作業・行為で、いつ頃、どの場所で、どんな原因などで発生したのかデータを分析し対応策を検討して未然防止に繋げることです。Aの「ヒューマンエラーの拡大防止」では、多重のエラー検出策によりエラーを発見しやすくして素早く修正できる工夫をしたり(例:チーム組成対応、チェックリスト作成、警報装置など)、エラー発生に備えて被害を最小にする(例:予備バッテリー、緊急の事前準備など)ことなどが考えられます。

また、エラープルーフや(Failure Mode and Effect Analysis : 故障モード影響解析)などの手法を活用するのも有効です。エラープルーフの5つの原理(排除、代替化、容易化、異常検出、影響緩和)はこのリスクに対応した手法といえます。審査現場では、もちろんこれらのリスク対応を十分行っている組織は多くありますが、個別エラー事例に対する再発防止は別として、累積データの分析・活用やエラーの拡大防止の未然防止ではさらに工夫を進める必要性を感じます。

このことは審査における、ISO9001:2008年版の「8.5.3. 予防処置の取り組み事例」が少ない状況が裏づけていると思います。ISO9001:2015年版では、「6. 計画」でリスクへの取り組みが要求され、「8. 運用」では製造・サービス提供の管理として、ヒューマンエラーを防止するための処置が新たに要求されました。ヒューマンエラーをプロセスにあるリスクとして捉え、体系的な取り組みを進めることは改善に繋がる効果的な活動と考えます。

新たな規格はサービス分野にも適用しやすいものとなっています。人的ファクターとの関わりが強いサービス業では、特に人的要因のリスク管理に取り組むことが大切です。

お断り: 本コラムの内容は一般的見解や個人的所感を述べたものであり、
個別の審査において一律に適用されることを保証するものではありません。
審査の現場から TOP

 

お問い合わせフォーム

 

お見積り依頼はこちらから

 

認証機関の変更をご検討ですか

 

フライヤー・パンフレットをダウンロード

 

開催予定一覧はこちら

 

関連ニュース

 

関連サービス